世界の中の日本文学に光を当てる――
文芸誌『jem』日本文学の海外受容・翻訳の状況を大特集した号を刊行したい!

目標金額の76パーセントを達成!発起人からのお礼と活動報告

こんにちは、発起人の木村夏彦です。7/11にプロジェクトを開始し、もう少しで一か月が経とうとしています。みなさまのご支援、ご協力のおかげでついに目標金額の76%を達成いたしました。厚く御礼申し上げます。

この間、あまりにたくさんのことがありました。このプロジェクトと並行して、この数週間でもっとも大きな体験は能登の震災ボランティアに参加したことです。クラウドファンディングを開始してまもない三連休で、プロジェクトの宣伝も、山のように溜まったメールの返事も脇に置いて、三日間をまるまる他のことに費やすこと。誇張ではなく、ボランティアの計画を直前でキャンセルすることも脳裏をよぎりました。仮にキャンセルしたとしても、同行したメンバーのだれもとがめることはなかったと思います。

クラウドファンディングを始めるにあたって、すでにクラファンを経験されたことのある方何人かに、オンラインでお話をうかがうことができました。そのなかのひとり、フランス語翻訳者・サウザンコミックス編集主幹の原正人さんとお話した際、「ぜったいに諦めないこと」と力強く言ってもらったことを憶えています。さて「初志貫徹」という語を凝視したとき、被災地に直接入って震災ボランティアをすることには今年でも2024年でもなく、2011年の自分の体験に源泉があると気づきました。結果、目指したのは、震災ボランティアにも参加しつつ、クラウドファンディングも成功させることを諦めない、ということでした。

震災ボランティアの経験は、また別の場所で語ることになるでしょう。パソコンを持っていくという選択肢は考えませんでしたが、滞在中の夜、ステイした古民家で歯を磨きながらスマホでプロジェクトページやSNSを眺めるということはしていました。SNSのタイムラインは、排外主義を掲げる政党が得票を伸ばしたことへの怒りや悲しみや嘆きや失望にあふれていて、誤って注ぎすぎたビールのように表面張力はそれを支えることがもうできないほどにあふれていて……。

よほど不器用なのか、時間はないのに、東京に帰ってきてから被災地について語る言葉を探すための読書もしています。つい数日前には、国語教科書の編集に長年携わった方をお呼びして、「海外文学と国語教育(言語教育)の橋渡しを考える」ための個人的な勉強会を開きました。この企画も、以前からいつかなにか開いてみたいな、と思っていたことの結果です。

伊藤亜紗はある座談会で、「回復」という言葉があるが、元の過去の状態に戻ることは絶対にありえない、と述べています。少しわたしの解釈をつけ加えれば、これは回復に必要な不可避的な時間の経過ということと密接に関連していると思います。

人が病気から治るのは回復。震災地がめざしているのは「復興」(注:震災を病気と同一視するという意図はまったくなく、望ましくない状態からの回復を念頭に置いています)。東北も能登も過疎化の大きなうねりに曝されていて、復興とは震災前へのタイムスリップを意味するわけではありません。ここでもう一度伊藤亜紗の言葉のつづきに戻ると、「でもそのプロセスに正解はなくて、かなり偶然の、たとえばたまたま(略)引っ越したといったことがきっかけになって、新しい健康が見つかることがあります」(藤井直敬、伊藤亜紗、安田登『現実とは?――脳と意識とテクノロジーの未来』出版記念トークイベント採録、「SFマガジン」2023年10月号)。今回、能登の珠洲市に滞在したのは三日だけでしたが、確かに土地のクリエイティビティに触れる瞬間がありました(これについては、今月「のと部」の公式noteに珠洲滞在記を寄せる予定です)。

人に回復、震災地に復興、書物には「復刊」。日本文学が、(ときに数十年の)永いインターバルをおいて日本語以外の言語に翻訳されるのは一種の復刊とみなすことができます。今回の特集では、日本で現在広く読まれているようには思えない作品が海外で人気を博している例も紹介されます。正解のないプロセスによる(ああ神様、文芸翻訳に「正解」なんてあるでしょうか?)、かなり偶然の、たまたま引っ越した異なる国/世界で、大あくびとともに目覚めた個別の作品が、どのような新しい生を生きているのか、素晴らしい方々の論考をみなさまとともに読むことを編者としてとても楽しみにしています。

プロジェクトは残りおよそあと一か月。今後、ときに弱気になってしまうこともあるかもしれません。その際は、みなさまが暖かくかけてくださった言葉を再読して頑張りたいと思います。宣伝、告知に引き続き最善を尽くしていきますので、もし可能でしたら、みなさまにも周囲の方への情報共有にお力を貸していただけますと幸いです。引き続きよろしくお願いいたします。

2025/08/04 23:08